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yuuの一人芝居

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創作秘話 「花筵」

 創作秘話 「花筵」 2016/8/6

 この作品は岡山県代表に選ばれた。青年演劇の「冬の流れ」を元にして何回か書きなおし、国民文化祭岡山で公演したものです。
 この作品は東京目黒の公会堂で岡山県代表として出場、公演しいくらかの賞を貰った。
「花ござの里」として水島、玉島の公民館でも公演している。
ここに登場する菊は高梁川の上流から西阿知へ嫁いできて
花ござを織り続けてきた人である。
 この物語を書こうとしたのは、私が職人が好きであるという事に起因している。コツコツと定められたように一つの物を作って生きていく其の人生をこよなくいとおしいと思い尊敬していると言う事である。
 人としての生き方は派手ではないが、其の佇まいはすがすがしいものだ。
 何とか勲章、県の文化賞もこのように一途に生きた人にぜひ差し上げてほしいと思う。
 今、花ござのと出会った倉敷市西阿知は昔のように機の音がしない。昔は夜が明ける前からこの地方は其の織り込んでいく音で包まれていた。
 い草も全国的に植えられていて、氷を割って苗を植え炎天下で刈り入れる。まさに重労働なのだ。それを藺泥にくぐらせて刈った後の田に干していく、乾いたらまとめて其の中から寸法を整え、袴を取り機に入れて織り込んでいく。これは畳表として日本の風土と相まって昔から使われてきた敷きものだった。
 其の産業が本格化したのは明治の跡あたりから日本が近代化していくなかでより使われるようになった。
 昔、幼い頃は其の畳表から立ち上る温かい匂いに心を安らかにしてもらったものだった。
 これは日本人なら総ての人が愛したものである。
 菊は戦中に夫を戦死されている。二人の子供を大きくしながら花ござを織り続けて生きてきた。これはまさに執念としか思われないものだった。夫との約束、ちぎりを結びかわした言葉を心の礎にして黙々と機を織り続けていく。女の一生なのだ。自分のためにではなく、夫との絆のために機の前から離れることはしない、それは至上の愛の行為なのだ。
 近代化され畳表がすたれていく中も織り続けていく其の姿は人間の強さ深さを見せられたようである。
 それを書きたかった。其の姿を広く皆に知ってもらいたかった。
 人が生きる上で何が必要かと問われたら、明日何をするのかが決まっていることが生きると言う事だと答えるだろう。ゆえに黙々と機の前で出来上がる花ござに魂と織り込むことの喜びを知っている菊を書きたかった。愛した人との約束を頑固なまでに貫く菊を書きたかった、女の幸せを、其の意地を貫く思いを書きたかった。
 今は、花ござはなくなりつつある。が、私には菊が織る機の音が耳朶に響いている。其の音は人の営みの中で何が本当の生き方なのかを教えてくれる気がする。
 召集された夫と二人で酒津の桜並木の下を、舞う花弁を献花のように崇めながあるきわかれる二人の心は、それは離別ではなく離れいても断ち切ることのない強固な絆としてある。
 男と女が時間と偶然とに差配されて結ばれる、其の奇跡は永遠に続くものでなくてはならない。
 菊の心には其の自覚が世界の中心のように存在していた。
 昨今、愛と言え言葉は軽く風に流れているが、文明と言う人間の心をないがしろにするものに対して、其の大切さを一人の花ござを織り続ける菊の姿を借りて書き著わしたかった…。
 書き手の心が見る者に十全に届くとは思わないが、一人でも何かを感じてくれれば書いた甲斐はあったという書き手の本望を添えたい・・・。
 


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